リンカンシャーへの旅(9)メルボルン卿
関東地方も梅雨入りしました。そして、いよいよ今週末が本番です。前回までは一気に書き進みましたが、第五曲になって急に筆が止まってしまいました。雨のせい?練習が忙しい?、いいえ、音楽同様、この曲の解説は難しいのです。
『リンカンシャーの花束』の『花束』とは、「野に咲く花々を束にしたような」とグレインジャー自身も語った通り、名も無き人々が、時の流れに埋もれてしまいそうな物語を様々に歌い継いできた民謡を題材にしたのだと僕は解釈していました。
なのになぜ第五曲だけは、野に咲く花どころか、宮廷の花に例えても良いくらいの歴戦の勇者を取り上げのだろう? まぁ、野に咲く花々にバラとかユリとか豪華な花を一本だけ入れても、それはそれで花束としては面白いかも? それとも、結局グレインジャーも人の子、高貴な人にまつわる歌も取り上げて、万人うけを狙った? それから、第五曲の元々のタイトルは『マールボロウ卿』というだったのをなぜ『メルボルン卿』に変えたの?
空想の旅は、なぜ?、なぜ?、なぜ?、と考え始めると足止めを食らうことが多いのです。
マールボロウ(若しくはマールバラ)卿とは、今から約300年前の18世紀初頭に活躍したイギリスの軍人ジョン・チャーチルのことです。皆さんも良くご存知の第二次世界大戦当時のイギリスの首相サー・ウィンストン・チャーチルや、1997年に亡くなった皇太子妃レディー・ダイアナ・スペンサーのご先祖様です。ジョン・チャーチルは、第一曲の『リスボン』に登場したウィリアムが戦いに行ったスペイン継承戦争でも大いに戦果を上げました。副題が「戦いの歌」とされた通り、原曲の民謡では、祖国イングランドの為に部下と共に勇敢に戦う姿が歌われています。
しかし、この民謡の最後の歌詞は「私は今、ベッドに横たわり、病と闘っているが、まもなく死に屈するだろう」なのです。つまり、ヒーローを称える歌でありながら、本人が臨終の床で生涯を振り返るスタイルなのです。数百ある民謡の中でも、実在の英雄を題材にした曲は珍しいとのことですが、「将軍万歳!」的な歌にならないところがイギリス民謡なのでしょうね。歴戦の勇者だって庶民と同様、死には勝てないと歌われたからこそ、この民謡も『花束』に入っていても違和感なく受け入れられるようになりました。
最後に残された謎は、第五曲のタイトルが元々『マールボロウ卿』だったのが、何故『メルボルン卿』に変えられたのか?です。両者とも実在の人物ですが、全くの別人ですし、歌詞の内容はマールボロウ卿を指していることは明白です。では、ここでクイズを出します。次の中から正解はどれでしょうか?
1.この民謡を1906年にグレインジャーに歌って聴かせた86歳のジョージ・レイ老人が、グレインジャー青年(当時24歳)がメルボルン出身だと知って、マールボロウを(Marlborough)わざとメルボルン(Melbourne)に替えて歌った。
2.レイ老人の記憶違い。
3.レイ老人の訛りがひどくて、グレインジャーが聞き取り違えた。
4.ある想いを持って、グレインジャーがわざと替えた。
クイズの答えは、6月2日、本番終了後、皆様にお知らせ致します。
お楽しみに!