リンカンシャーへの旅(8)愛の証のペンダント
パーシー・グレインジャー作曲『リンカンシャーの花束』の第4曲、『 元気な若い水夫』のお話しです。
音楽としては、愛らしいメロディーですが、途中からフルート、ピコッロ、Bクラ、Esクラに、アクロバットの様な六連符が対旋律として登場します。いつも後ろから「スゲぇ~!」と思いながら聴いています。ルノの木管セクションは本当に素晴らしいです。
第4曲の副題は『恋人と結婚するために帰郷』とあります。この連載の最初の方に書いたように、第1曲『リスボン』は、恋人ナンシーを置き去りにした水兵ウィリアムの物語でした。第4曲のタイトルを聞いただけで「えっ?水夫?結婚?帰郷?」と、第1曲に登場した恋人たちとの関連性が気になって仕方ありませんでした。
歌詞の内容は以下の通りです。
元気な若い水兵は可愛らしいメイドが庭で散歩しているのを目撃していきなり交際を大声で申し込みます。
「私は、あなたの様な立派な方に相応しくない貧乏で卑しい女でございます」
「召使いにすらなれません」
「召使いにすらなれない?」
「とんでもない、結婚してお前が召使いを使う身分にしてあげるよ」
「ダメです。私には7年前にいなくなったきりの彼氏がいるのです」
「あと7年でも待ちます。生きていればきっと帰って来てくれるはずです」
「7年も戻って来ないなら死んだか溺れてしまっているかも知れないね」
「でも彼が生きていれば、あと7年待っていればきっと見つかるんじゃないかな?」
そう言って水兵は、胸の奥から恋人から貰った「愛の証のペンダント」を見せます。
メイドは、驚きのあまり崩れ落ちてしまいます。
そして水兵は、彼女を腕の中に抱き起こして3回キスして言います。
「お前が待っていた水兵は、今まさにお前と結婚する為に帰って来たのさ」
めでたし、めでたし。
第1曲では薄情で浮気者だったはずの水兵が、第4曲では実は誠実で一途な男だったという物語になっています。
他の民謡がそうだったように、この歌も同じような内容で様々なメロディーで歌われているようです。タイトルも『Dark Eyed Sailor(濃い瞳の水兵)』だったり、『Broken Token(割れたペンダント)』だったりします。またそれらの中には、水兵の名前がウィリアムで、メイドの名がナンシー、というのも見つかりました! 今で言えば、愛と誠?、ケンとメリー?、みたいな感じなのでしょうかね。
それから水兵が持っていた「愛の証のペンダント」とは英語で「Love Token」と呼ばれ、出航する船乗りに恋人が贈る習慣があったそうです。シドニー博物館所蔵の実物の写真を載せておきます。